後足には、上に位置する関節から順に股関節、膝関節、足根関節の3つの関節があります。なかでも、ワンちゃんの跛行の約50パーセントは膝関節が原因で生じているといわれています。膝関節では特に前十字靭帯断裂症、膝蓋骨脱臼の発生が多いです。関節に発生した病気によって、関節内で炎症が起こり、痛みが生じます。痛みが生じると跛行するようになります。跛行が見られた場合、できるだけ早く診断し治療をおこなうことが重要です。
症状: | 散歩や運動を嫌う、段差を嫌がる、立ち上がるのに時間がかかる、腰を左右に大きく振りながら歩く(モンローウォーク)、横座りをする、ウサギのように両後肢を一緒に動かして走るなどの症状が4ヶ月~1歳齢頃にでます |
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- 成長過程で股関節(寛骨と大腿骨)の発育異常が生じ、股関節に緩みが引き起こされる疾患です。緩みのある不安定な股関節を動かすことで、関節の軟骨部分が損傷を受け関節炎がはじまります。関節炎による痛みから跛行を呈します。
- ラブラドール、ゴールデン、バーニーズ、シェパード、ニューファンなどの大型~超大型犬で多い。柴犬、ポメラニアン、トイプードルなどの中型、小型犬でも起こります。
- 触診、レントゲン検査
- 下記1、2、3、4
症状: | 後肢跛行、後肢の筋肉が痩せる、四つ足で立っているときに患肢を挙上する、前足に体重をかけすぎ前につんのめる |
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- 成長期に大腿骨頭への血液供給が不足することで大腿骨頭壊死が生じ、関節軟骨が消失することで痛みが引き起こされます。
- ヨークシャテリア・トイプードル・チワワ等の小型犬種に好発する疾患です。膝蓋骨内方脱臼の好発犬種と類似しており、併発していることもよくあります。多くは5ヶ月〜11ヶ月齢で症状がでます。
- レントゲン検査
- 後肢の跛行が成長期に起こる場合には要注意です。早期発見早期治療が重要です。下記1、3
症状: | 後肢を完全に挙上し、体重をかけない |
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- 大腿骨頭をうける側の寛骨臼と大腿骨頭の間にある円靭帯が断裂し、股関節の関節包が破れることで、大腿骨が寛骨臼から逸脱します。股関節形成不全にともなうものと、交通事故や高い所から飛び降りるなどの外傷によるものがあります。
- あらゆる犬で起こります。
- 触診、レントゲン検査
- 脱臼した原因により治療は異なります。非観血的な整復が適応でない場合は、外科的な整復が必要になります。下記1、2、3、5
全股関節置換術は股関節形成不全やその他の股関節の異常(レッグペルテス、骨頭骨折等)に対して行われる根治的治療法で、機能の回復に関しては現在のところ最もすぐれた治療法です。機能しない、あるいは痛みを持つ股関節をチタンの人工関節に取り替える方法です。6カ月齢からあらゆる年齢で可能な手術です。
5カ月齢~8カ月齢までの症例で有効な手術。腸骨・恥骨の二点もしくは腸骨・恥骨・坐骨の三点に骨切りをおこない、寛骨臼による大腿骨頭のカバーがよくなるよう腸骨を外側へ回転させる術式です
大腿骨頭を切除することで、寛骨臼と軟骨が損傷した大腿骨頭の直接的な接触をなくし痛みを取り除く方法です。何らかの原因でその他THR・DPO・TPOの手術ができない場合、保存的療法に反応しない場合、救済的な手術としておこないます。骨頭を切除した関節周囲に線維性偽関節が形成されるまで、不安定になるため、患肢を着地し負重するようになるまである程度の期間を要します。歩様が改善されるまで、リハビリテーションをおこないながらサポートをいたします。
股関節形成不全を発症する可能性がある幼弱犬におこなう予防的な手術。
12~18週齢で可能な手術。恥骨結合を電気的に焼灼することで骨の成長を停止させます。これにより、寛骨臼による大腿骨頭のカバーがよくなるよう骨盤の形状を変化することを期待しておこなう手術です。
股関節脱臼整復のためにおこなう術式。股関節を成り立たせている受け皿である寛骨臼と大腿骨頭、それらを繋いでいる円靭帯。股関節脱臼の際にはこの円靭帯が完全に断裂しているため、一時的にその代わりとなる合成靭帯を寛骨臼の腹側に取り付けたノールスピンと大腿骨頭に通し、脱臼した骨頭を寛骨臼におさめ固定する方法。
症状: | 患肢を曲げたまま数歩歩く、歩き始めにスキップをする、脱臼した膝蓋骨を元に戻そうとして後肢を伸展させてケンケンする |
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- 膝蓋骨が大腿骨遠位にある滑車溝から内方もしくは外方に脱臼する疾患です。膝蓋骨外方脱臼の症例では、内方脱臼よりも強い症状を呈することが多いです。
グレード2とは、膝蓋骨を指で押すと簡単に脱臼しますが、指を離しても自然には元に戻らない状態です。日常生活の中で自然に脱臼することがあり、元に戻ると跛行がおさまります。
グレード3とは、普段から膝蓋骨が脱臼したままで、指で押すと正常な位置に戻りますが、指を離すと脱臼した位置にもどる状態です。
若い時期にみられた場合は放置しておくとグレード4にいたる可能性があること、何らかの症状があり日常生活の中で脱臼している場合は膝蓋骨内側の軟骨がすり減り、痛みが強くなるなどの理由から手術による整復を必要とします。 - 70〜80%は内方脱臼で、多くはトイプードルやチワワ、ポメラニアン等の小型犬。大型犬でも起こります。外方脱臼はラブラドール、ゴールデン等の大型犬で多いですが、小型犬でも起こります。
- 触診、レントゲン検査
- 外科手術。おもに、Block Resectionという関節軟骨を温存したまま膝蓋骨がおさまっている溝を深くする方法と、脛骨粗面転移術といい内側に変位している膝蓋靭帯の付着部である脛骨粗面の位置を正しい位置にもどす方法とを組み合わせておこないます。
症状: | グレード4になると、重度の跛行を呈することが多くなります。 |
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- 成長期に膝蓋骨が大腿骨遠位にある滑車溝から脱臼し、大腿骨や脛骨の変形が急速に進行し、膝蓋骨が脱臼し固定されている状態。指で脱臼をなおそうとしても戻らない状態。
- トイプードル、チワワ、ポメラニアン、柴犬など
- 触診、レントゲン検査
- 外科手術が適応であれば、Block Resectionによる造溝術と脛骨粗面転移術に加え、必要に応じて変形した大腿骨を矯正する骨切り術を同時におこない、膝蓋骨が正しい位置におさまるようアライメントをただします。
症状: | 徐々に悪化する後肢の跛行、後肢の挙上、歩いている途中でキャンと鳴いてから後肢をあげる |
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- 明らかな原因は不明ですが、特に外傷をともなわず一般的な日常生活の中で前十字靭帯は断裂します。膝関節の安定化を担っている前十字靱帯が断裂することにより、膝関節の不安定性が発現します。断裂した前十字靱帯の断端から炎症性のメディエーターが放出されるため、関節炎が起こります。また、膝関節不安定性により二次的に半月板損傷が引き起こされます。半月板が損傷すると強い痛みに変わり、後肢を挙上するようになります。
- 大型犬ではラブラドール、バーニーズ、ロットワイラー、ゴールデン、ニューファン、中型犬ではコーギー、ビーグル、柴、雑種での発生が多い。
- 触診、レントゲン検査、関節鏡検査
- 前十字靭帯の断裂を早期に確定診断するため、関節鏡検査をおこないます。前十字靭帯断裂と同時に半月板損傷を認めた場合は関節鏡視下で損傷部半月板切除をおこないます。関節鏡検査の後にTTA (Tibial Tuberosity Advancement) 脛骨粗面前進化術などの膝関節を安定化させる手術をおこないます。TTAでは脛骨稜を骨切りし、脛骨粗面前進化をおこなうことにより前十字靭帯にかかる箭断力を中和させます。
症状: | 後肢の跛行や挙上、突然キャンと鳴いてから後肢をあげる |
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- 膝関節の安定化を担っている前十字靱帯が断裂することにより、膝関節の不安定性が発現します。断裂した前十字靱帯の断端から炎症性のメディエーターが放出されるため、関節炎が起こります。
- ヨークシャテリア、ポメラニアン、マルチーズ、チワワ、トイプードルなど。
- 触診、レントゲン検査、関節鏡検査
- 関節外制動法(Lateral Suture Stabilization)など。前十字靭帯と同様の働きをする位置に合成靭帯を設置し、膝関節を安定化させる手術法。
症状: | 通常4~8カ月齢で後肢跛行を呈します。 |
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- 大腿骨骨頭の関節軟骨が成長障害により厚みを増し、損傷を受けやすくなり、軟骨が浮きあがりはがれることで痛みを生じます。
- バーニーズ、ゴールデン、ラブラドール、シェパードなど大型犬
- レントゲン検査、関節鏡検査
- OATS(自家骨軟骨移植)など。軟骨の欠損部に別の部位から採取した本人の正常な軟骨を移植し、関節面での接触を良くし、痛みを取り除きます。大型犬の成長期の跛行は消炎鎮痛剤等による対症療法ですませず、跛行原因の早期診断、早期治療が重要です。
症状: | 後肢の跛行、足首の関節の腫れ・痛み |
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- 落下やジャンプに伴って起こる靭帯の損傷や免疫介在性関節炎、糖尿病・クッシング症候群など内科疾患に関連して起こる靭帯の変性などによって生じる足根関節の不安定性。
- あらゆる犬種で起こる可能性があります。
- レントゲン検査など
- 外科適応の場合は全関節固定術、部分関節固定術、スーチャーアンカー法などをおこない、足根関節を固定します。